平成22年12月号

〜知って得する健康講座  第29集〜 Hib(ヒブ)ワクチンについて      医師 米山 哲司

●はじめに
 これから寒さが身にしみる季節になりますが、風邪に似た症状で実は大変重大な病気"髄膜炎"という病気を皆さんはご存知でしょうか?小さなお子さんがおられるお母さんは良く知っているのではないかと思います。今回は、髄膜炎とその予防手段であるHib(ヒブ)ワクチンに関するお話です。

●髄膜炎とは
 何らかのきっかけでウイルスや細菌などが脳を覆う髄膜に入り込み炎症を起こす疾病です。新生児や乳児に多くみられますが、成人でも起こります。主に無菌性(ウイルスによる)髄膜炎と細菌性髄膜炎に分類されます。

●髄膜炎の症状
 初期症状が発熱、嘔吐、下痢、頭痛等です。風邪や急性胃腸炎等のありふれた疾患との鑑別が非常に難しく、症状がひとつのみといった症例も稀ではありません。また、ゼロ歳児の場合は初めての発熱というケースも多いため、小児科の先生ですらも初期の段階で髄膜炎との診断を下すことは容易ではないといわれています。

●髄膜炎の予後
 細菌性髄膜炎は無菌性髄膜炎よりも重篤です。細菌性髄膜炎の場合は急速に悪化することがあり、「一晩様子を見ましょう」と帰宅させた患児が、その夜には救急搬送されるという事態になる可能性もあります。無菌性髄膜炎が1週間ぐらいで治癒し、後遺症も殆んどみられないのに対し、細菌性髄膜炎は死亡率(約30%)も高く、後遺症(知能障害やてんかんなど)も20〜30%にみられます。いかに早く診断し、治療するかにかかっているわけですが、皆さんはこの髄膜炎を予防できるワクチンがあることをご存知でしょうか?

●細菌性髄膜炎の原因菌とHib(ヒブ)ワクチン
 原因菌は大半がb型ヘモフィルス・インフルエンザ菌(Hib:ヒブ、インフルエンザウイルスではありません)で、次いで肺炎球菌の順となっています。Hib(ヒブ)による髄膜炎は5歳以下、特に生後3ヶ月から2歳くらいまでがかかりやすく、日本の年間患者数は少なくとも600人と報告されています。このうち約30人が死亡し、150人に知的障害や癲癇(てんかん)などの後遺症が残ると報告されております。 そのため、これらの菌に感染しない対策があれば髄膜炎に感染する危険性は減ると考えられます。ところが、日本以外の先進国では20年以前よりその対策がなされていたのです。それが今回の本題である"Hib(ヒブ)ワクチンの接種なのです。"

●Hib(ヒブ)ワクチンの経緯
 1980年代に欧米を中心にHibワクチンが導入されました。以降、米国では定期予防接種で髄膜炎の罹患率が100分の1にまで減少するという結果が報告されるようになり、1998年に世界保健機構(WHO)が Hibワクチンの乳児への定期接種を推奨する声明を出すまでになりました。現在では世界100カ国以上で使用され、世界的に見ればHib感染症はまれな疾患になりつつあるといえます。 ところが日本はどうでしょうか?驚いたことに、つい最近まで日本は先進国唯一のHibワクチン未承認国であったのです。 日本での経緯 日本では、2000年にHibワクチンの国内臨床試験が開始。2005年6月に日本小児科学会が厚労省にHibワクチンの要望書を提出し、早期承認を求める動きがありました。2007年ワクチンが承認され、2008年に販売に至っております。

●Hibワクチンの課題
 しかし、日本では任意接種であり、自己負担が大きく、そして一部の自治体を除いて助成制度も整っていないことから、あまり普及していないのが現状です。また接種に対する啓蒙が不十分であったことも拍車をかけていたように思われます。 今後の期待 Hibワクチンの早期の定期接種化は、細菌性髄膜炎罹患を減少させ、子供を守り、親の不安を取り除き、そして小児科医の負担軽減にもつながっていくと考えられます。国・自治体・国民の働きかけにより、予防接種法が見直され、定期接種に移行されることを切望している次第であります。

● さいごに
 今回はHibワクチンについて接種時期、方法、や費用などのお話することができませんでした。もしその詳細を知りたいと思われましたら、最寄りの小児科医院にご相談することをお勧めします。


〜おいしく食べて、病気予防 第7集〜 減塩食(その2)
         栄養科主任調理師 (給食用特殊料理専門調理師)  園田 由里子  監修 院長 水本 誠一

 前回の減塩食に引き続き、塩分について書かせて頂きます。 まず、クイズです。塩分量は、どちらが多いと思われますか?

@薄口醤油10cc と 濃口醤油10cc
A赤みそ10g と 白みそ10g
B大根ぬかみそ漬10g と たくあん10g
C梅塩漬10g と 梅干10g

答えは最後に。

 家庭でよく食べられるインスタントのカップ麺について、私なりに、どのくらい塩分が入っているか調べてみました。
 1個のカップ麺に塩分が5.3グラムから5.8グラム入っていることがわかりました。中には7.1グラムも入っているという驚きのものもありました。ですが、汁を全部飲みほさなければ、1グラムから2グラム程度の塩分量ですむということです。一日にとる塩分量は、10グラム以下が理想的と言われている現実からすれば、工夫の一つとして考え実行してみてはいかがでしょう。

 私は病院の調理師として勤務して2年半になりますが、患者の方で脳梗塞や高血圧・心臓病・腎臓病などの病気から塩分を制限しなければいけない人がたくさんいることに驚きました。塩分については、病院に勤務する以前から大変関心があり気をつけてはいたのですが、病院で患者様の食事作りを担当してみると、目分量のいい加減さがわかりました。更に、正確に調味料を計量して調理する、あるいは塩分を制限することが、いかに治療の一端につながっているかということを痛感しています。計量が面倒と言われる方は普段使われる食器などで一度、塩・みそ・しょうゆなど計ってみられてはいかがでしょうか。   

計量風景

 調べてみてわかったのですが、作られた市販の物より、時間がかかっても手作りの方が塩分量は少なくできます。また、市販の物で塩分が多い物は、一日あるいは一回に食べる量を決めて食べるようにしてはいかがでしょうか。塩分量を減らすということは、脳梗塞・脳卒中・心筋梗塞等の病気予防にもつながります。気をつけてみてはいかがでしょう。

(クイズの回答) @薄口醤油 A赤みそ Bたくあん C梅干


〜みんなで覚えよう家庭介護 第10集〜 褥創予防 徐圧    
                  訪問看護ステーション主任 興梠美鈴    看護師 下間夏美  

●褥創とはなんでしょうか?
 私達は眠っている時、無意識のうちに寝返りを打つことで体重が一定の場所に長時間かかるのを防いでいます。自分で寝返りを打てないと、体の同じ部分に体重がかかり "血のめぐり"が悪くなり皮膚やその下にある組織が死んでしまいます。

●褥創の出来やすい部分はどこでしょうか?
 骨の突出している部分に出来ます。自分の手を寝ている方の体の下にいれてみると体圧を感じる事が 出来ます。


●圧迫やずれを取り除く方法は?
 褥創を予防するためには体位変換(体の向きや姿勢を変えること)をしたり、体圧分散寝具を用いたりして皮膚にかかる圧を分散しましょう。

ベッドで過ごす場合
上向き、左右の横向きが交互になるように2〜3時間ごとに変えます。 横向きになる場合は体の向きが30度位になるように調整しましょう。
楽な姿勢を保ち圧迫やずれが緩和できるよう枕やクッションを用いましょう。
背あげを行う場合30度以下になるようにしてその際、寝巻きやシーツのしわが皮膚を圧迫することがないように体を浮かせ、皮膚にかかる力がかからないようにしわを伸ばしましょう。

座って過ごす場合
姿勢がずれないよう股関節、ひざ、くるぶしが各々90度になるように座りましょう。
円座の使用は避けましょう。姿勢が不安定になり円座に接する皮膚に圧迫がかかります。


 体圧分散寝具はウレタンマットレス、エアーマットレス等色々な種類がありますので状態にあわせて活用しましょう。 ※ 詳しくは保健師、ケアマネージャーにご相談ください。

平成22年11月号

〜知って得する健康講座  第28集〜 COPD(慢性閉塞性肺疾患)とは?   副院長 大城 一

  COPDとは、Chronic Obstructive Pulmonary Diseases(慢性閉塞性肺疾患)の略で、気道の慢性的な閉塞により肺への空気の流れが悪くなる病気の総称です。具体的な病名としては、肺気腫と慢性気管支炎のふたつが挙げられます。2001年に行なわれた調査では、日本国内の約530万人が COPD を患っているという結果が出ています。
 世界の死亡原因の第4位にランクされる病気であるにもかかわらず、気付かないまま重症に陥る患者さんが多い「肺の生活習慣病」です。

● 症状 
 息切れやせき、タンなどの症状は、呼吸を行う臓器である肺がダメージを受け、酸素をとりいれることができないために起きてきます。

●COPD と呼ばれる病気の種類)  
 慢性気管支炎、肺気腫(はいきしゅ)、びまん性汎細気管支炎など、長期にわたり気道が閉塞状態になる病気の総称です。

慢性気管支炎  タンを伴ったせきが特徴です。気管支に慢性の炎症やむくみ(浮腫)が生じ、タンが過剰になります。これを取り除くためにタンをともなうせきが出ます。タンの量が多くなると気管支が塞がれ、そこにウイルスや細菌が感染して、さらに炎症が広がります。進行すると気管支に空気が通らなくなり、その先の肺胞が壊れてしまいます。
肺気腫  細気管支の先は、肺胞(二酸化炭素を出して酸素を体に取り入れる場)がぶどうの房のようについています。肺気腫はこの細胞の壁が崩れ、崩れた肺胞が大きく膨らんで弾力性や収縮性が低下する病気です。弾力性や収縮性が低下すると、息をはき出すときに肺が縮まりにくくなり、新しい空気を吸うことができないので、息切れや呼吸困難を起こしやすくなります。

●原因
 COPD は別名「タバコ病」と呼ばれるように、その主な原因は喫煙です。タバコの煙に含まれる有害な物質を吸い続けると、気管支や肺に慢性的な炎症が起こり、その機能を低下させてしまいます。COPD 患者の約90%が喫煙者であるというデータもあります。  また非喫煙者であっても周囲にいる喫煙者のタバコの煙(副流煙)を吸い込む、いわゆる受動喫煙によって、COPD やその他の呼吸器の病気にかかることがあります。  その他にも鉱山や工場、建築現場などで長時間働いていることや、大気汚染なども COPD を引き起こす可能性があります。

 

 

 

●治療
 残念ながら今のところは COPD を完全に治す根本的な治療法は確立されていません。しかし早い時期に診断を受けて治療を始めることで、病状の進行を遅らせることができます。

禁煙  COPD の治療の基本は禁煙です。タバコは COPD の最大の原因ですので、喫煙習慣を絶つことでCOPD の進行を大幅に遅らせることができます。 ニコチン依存の状態になると、禁煙すること自体が難しくなります。病院の禁煙外来で、専門医によるニコチン代替療法(ニコチンパッチやニコチンガムなど)などの禁煙治療を受ける必要があります。 蘇陽病院でもニコチン代替療法による禁煙治療ができますが、健康保険は適用できず、およそ2万円の自己負担が必要となります。
薬物  今のところ、COPD 自体を治療する特効薬はなく、呼吸困難などの症状をやわらげるための薬が用いられています。COPD になると、呼吸困難⇒身体が動かしづらくなる⇒筋力・運動能力が低下⇒呼吸困難の悪化、という悪循環が生じるので、症状をやわらげる薬を用いることによってその悪循環を断ち切れば、病気の進行を遅らせることができます。 主に使用されるのは、気管支を広げて呼吸を楽にする気管支拡張薬です。特に苦しいときには即効性の高いステロイド薬が用いられます。その他に痰(たん)を吐き出しやすくする去痰薬なども使われています。
酸素療法  COPD が重症になり、肺機能が低下して普通の呼吸だけでは酸素不足に陥ってしまう場合には、酸素療法が行なわれます。これは最重症患者さんが対象で、酸素供給器(ボンベ)を用いて、専用のチューブ、カニューラというものを鼻に通して継続的に酸素を吸入します。 酸素療法を行なうには病態が安定していることが条件です。また患者本人の自己管理能力、居住環境、介護者や家族の有無、生活様式などを考慮した上で、在宅で行なうことも可能です。(在宅酸素療法)

〜おいしく食べて、病気予防 第6集〜 減塩食(その1)
         栄養科主任調理師 (給食用特殊料理専門調理師)  奥村 真由美   監修 院長 水本 誠一

 以前は、「病院の食事は味が薄くてどうも」、という声をよく耳にしたものでした。しかし今では「治療の為に薄くしてあるんだから」と、皆さんの減塩食への意識も変わってきました。とは言いましても、まだ家庭では塩分の多い漬物や佃煮など、つい取り過ぎているのが現状ではないでしょうか。
 塩分の取り過ぎは高血圧症を発症させる要因でもあり、脳梗塞や心筋梗塞などを引き起こす原因ともなります。これらの病気は全て「生活習慣病」といわれ、生活習慣を改善していくことが発症予防に大切だとされています。まずは塩分を控えバランスのとれた食事を心がけ、食べすぎない、睡眠を充分にとる、ウォーキングやストレッチ等の適度な運動をする、ストレスを溜め込まない、禁煙をする、肥満の人はやせる、など日頃から心がけたいものです。

献立名

ご飯・魚の山路蒸し・なめこ汁・和え物 ・栗きんとん・梨

普通食
塩分量
塩の場合 3g
濃い口醤油に換えると20cc
薄口醤油に 換えると18cc
減塩食
塩分量
塩の場合 1.5g
濃い口醤油に換えると10cc
薄口醤油に 換えると9cc

 これは、病院の昼食として提供したものです。献立は同じですが、塩分量は上記の通りです。 調理をする時は目分量ではなく、必ず計量することが大切です。
 それから、だしの味で食べるのも減塩食の助けになります。いりこ・こんぶ・かつお・椎茸などのだしを取り活用すると良いと思います。市販の化学調味料は、塩分を含むため注意が必要です。減塩するには砂糖も控え、酢やレモン、カボス、大葉などの香りの良い食品を取り入れるのも良いかと思います。また、味をみないで何にでも醤油をかける方がおられますが、そんな時は、だし割り醤油(だし汁100cc+濃口醤油100cc)を火にかけ、一煮立ちさせて冷まし、冷蔵庫にいれて常備しておくのも良いと思います。
 とにかく健康への近道は「薄味に慣れること」です。高血圧の方もそうでない方も減塩食を心がけましょう。


〜みんなで覚えよう家庭介護 第9集〜 食事介助        作業療法士 佐藤 真由香

 秋も深まり、食べ物の美味しい季節になりました。今回は、「食事介助」についてお話しします。
 食事は生きていくために欠かせないものです。栄養を摂りエネルギー源を確保するだけでなく、楽しみの要素も持ち合わせています。同時に、高齢者や身体に障害がある方では、噛んだり飲み込んだりする力が弱くなり、危険性を伴うこともあります。 まず、食事をするためにどこが難しいのかを確認しましょう。

 自分で食事を摂る場合は、@食欲 A食事をする場所まで移動する Bテーブルにつく C食べ物を認識する D箸やスプーンで食べ物を口まで運ぶ E噛んで飲み込む F消化する という一連の行為が必要です。その人によって困難の数や程度も異なります。
 以下に、食事介助の要点や配慮を紹介しますが、一人で食事ができないから全て手伝うのではなく、難しいところを援助するようにしましょう。

● 食事介助の準備

・ 排泄やオムツ交換を済ませ、スッキリと気持ちの良い状態にしておきましょう。
・ 意識がはっきりしている状態にしましょう。
・ 食べるときの姿勢が重要です。 
むせたり誤嚥(食物が気道に入ること)しない姿勢にしましょう。 ⇒椅子に深く、安楽な状態で座る 顎が引き気味になるように調整する
・ 使いやすい食器を選びましょう。
・ 室温を調整しましょう。
・ エプロンやテーブル、手をきれいにしておきましょう。

介護用食器のいろいろ


●調理の工夫、心掛け 

・ 消化の良いもの、やわらかくて食べやすいものを中心に考えましょう。
・ 食材によっては細かく刻んだりミキサーにかけたりして食べやすくしましょう。
・ 汁物はとろみをつけるとむせにくく飲みやすくなります。
・ 熱すぎや冷たすぎる料理は避けましょう。

●食事介助中の注意 

・ 同じ目線の高さで介助し、顎が上がった姿勢にならないように注意しましょう。
・ 何を食べるか確認したり(声かけ)、ペースをうかがったり、本人の意思を尊重しましょう。
・ 一口の量を配慮しましょう。 ・ お茶や汁物を交え、口の中に食べ物が残らないようにしましょう。
・ 飲み込んだのを確認しましょう。

「リハビリ介護入門」25ページより

●食後の注意

・ 口の周りや手をきれいにしましょう。
・ 入れ歯をはずして口の中をきれいにしましょう。
・ すぐに横にならず、無理のない範囲でしばらく座った状態でいましょう。

 その人に合った方法で、本人の意思を尊重しながらストレスのない食事介助を行い、健康の維持,病気の予防・回復に努めましょう。 適切な方法など分からないことは医師や専門職に相談することも大切です。 お困りのことがございましたら、遠慮なくお尋ねください。

平成22年10月号

〜知って得する健康講座  第27集〜下肢静脈瘤…足に浮き出た青いミミズ     医師 末綱 靖

 むかし、おばあちゃんの足にミミズが這ったように血管が浮き出ているのを見たことがありませんか。これが下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)です。下肢(脚・足)の静脈が拡張して瘤(こぶ)のように膨らんだ状態を下肢静脈瘤と呼び、拡張した静脈の多くは屈曲・蛇行しています。血管疾患の中で最も発生頻度が高く、軽度のものを含めると成人女性の43%に認められると言われています。

 下肢の静脈は解剖学的に筋肉内にある深部静脈、皮下を走る表在静脈(大・小伏在静脈)ならびに深部静脈と表在静脈を連絡する交通枝(穿通枝〈せんつうし〉)で構成され、各静脈には血液を重力に逆らって心臓に戻すための逆流防止弁があります。この静脈弁が障害されると血液の逆流が起きて、静脈圧が高くなり、静脈が拡張して本症が発症します。静脈弁の障害(弁不全)は、先天的に弁が脆弱(ぜいじゃく)な遺伝的素因に加え、妊娠、立ち仕事、加齢などの誘因によって生じます。下肢静脈瘤も、弁が壊れている場所や血管の拡張程度などによって、いろいろなタイプがあります。


大伏在静脈が主体の静脈瘤

小伏在静脈(膝の後ろ)が主体の瘤

下肢静脈瘤症例1

下肢静脈瘤症例2

●症状
血液がうっ滞することにより様々な症状が現れますが、自覚症状がなく美容上の問題を主訴とする場合も少なくありません。うっ滞症状としてはだるい、痛い、むくみなどがよくみられ、足がつる、いわゆる「こむら返り」もしばしば認められます。重症例では皮膚が障害され皮膚炎、湿疹、色素沈着、潰瘍(かいよう)などが観察されます。また、静脈瘤にそって痛みを伴う発赤(ほっせき)と腫瘤(しゅりゅう)を形成する血栓性静脈炎も併発します。

・血管が浮き出ている ・むくむ、重い
・こむら返りが起こりやすい ・だるい、疲れやすい、ほてる
・かゆい、点状発赤がある
・皮膚炎や湿疹がある
・色素沈着がある

 このような症状がある方は、下肢静脈瘤が原因かもしれません。

■治療法

保存療法
(圧迫療法)
医療用の弾性ストッキングや弾性包帯で、下肢に適度な圧力を与えることで下肢に余分な血液がたまることを予防し、下肢の深部静脈(下肢静脈の本幹)への流れを助けます。医療用の弾性ストッキングは、医療施設で取り扱っているものが効果的です。以前と比べ、現在の医療用弾性ストッキングは、デザイン的にも改良されサイズや仕様にもいろいろなものがあります。ただし、弾性ストッキングなどによる圧迫療法は、あくまでも進行防止・現状維持が目的で、下肢静脈瘤そのものが治るわけではありません。
硬化療法 本来なら、手術で引き抜いたり縛ったりしてしまう静脈の中に、硬化剤という薬剤を注入し、静脈の内側の壁と壁をくっつけてしまったり、血栓(血のかたまり)をつくり詰めてしまう方法です。硬化療法だけで、すべての下肢静脈瘤が治療できればよいのですが、軽度の静脈瘤以外には有効とはいえません。
ストリッピング手術
(静脈抜去手術)
 下肢静脈瘤の根治的な治療法として100年以上前から行われている手術で、弁不全をおこしている静脈をストリッパーというはり金を用いて引っこ抜いてしまう手技です。施設により異なりますが、入院の場合(5〜7日)は、全身麻酔あるいは下半身麻酔下で行います。また最近では、外来日帰り手術を行っている施設もあります。この方法は再発率が低く、一番確実な治療法です。ただしこの手術は、静脈を抜去しますので、まわりにある知覚神経にダメージを与えることがありますので、注意が必要です。 また最近では、硬化療法を併用するケースも増えています。
高位結さつ手術+硬化療法 静脈を引き抜くかわりに、弁不全をおこしている静脈と本幹(深部の静脈)の合流部を縛ったうえで、切り離してしまう治療法です。日帰り外来手術が可能です。最近では、硬化療法との併用が多く施行されています。


 この他にも最近はレーザー治療や弁形成術、内視鏡を用いた手術なども行われています。 下肢静脈瘤は本来、命にかかわる病気ではありません。美容上の理由から治療を希望される患者さんもたくさんいらっしゃいます。しかし、放っておくと皮膚がグシャグシャにただれるうっ滞性皮膚炎を引き起こす場合もあります。下肢静脈瘤かな?と思ったら一度相談されてはいかがでしょうか。


〜おいしく食べて、病気予防 第5集〜 糖尿病食とは(その2)
                 栄養科調理師 上村るり子    監修 院長 水本 誠一

 前回の糖尿病食・糖尿病腎症食の紹介に続き今回は、糖尿病教室(試食会中心)について書かせて頂きます。
当院では2ヶ月に一度、第4水曜日、正午から2時まで教室が開催されています。その時は必ず糖尿病食の試食会を実施しています。写真は、その教室の風景と試食会の食事の一例です。

献立名:
ご飯・刺身・野菜の炊き合せ・きのこの炒め物・山芋の二杯酢

 試食会での食事は、指示カロリーが1200〜1600キロカロリーの人に対応できるような昼食の内容になっています。 教室開催当日は、入院患者様個々の食事に加えて、試食会の食事を同時に作っていきます。前日から入念な打ち合わせをし、当日の作業に臨みます。迅速・正確さが要求されます。私は昨年の4月からこの病院で調理師として働いています。食材や調味料等、計ることの大切さを改めて学びました。今年6月、初めて糖尿病教室・試食会の食事作りを担当しました。そして教室に参加し、患者様と一緒に食事について勉強しました。最初に、管理栄養士の方から、食事を前にしてその献立について分量や味付け、食品の組み合わせ等の説明があります。それに加えて、その時期にあった食事療法の話があります。栄養の取り方、家庭でもできる簡単な調理法、空腹を満たすための一工夫等々の説明があります。初めて参加した私でもよく判り、良い勉強になりました。糖尿病治療にとって食事は治療の大切な第一歩であることを痛感し、責任の重さを感じました。

  また、教室では内科や歯科の先生、看護師、薬剤師、理学療法士、検査技師の方等の講話もあります。病気療養中の人ばかりでなく、血糖値が高いまま放置している方、健康な人でも色々な病気に関心をもっておられる方は是非参加して糖尿病に対する知識を深め、ご自分の日頃の食事、生活面を振り返ってもらい、改善すべきところは改善し健康で楽しい日々を過ごして頂きたいと思います。


〜みんなで覚えよう家庭介護 第8集〜 おむつ交換            看護助手 山本 生子

 失禁があるからといって、すぐおむつをあてるような安易な使い方はいけません。おむつは、お年寄りに精神的なショックを与え、時には、子供がえりや痴呆につながることもあるからです。 また、おむつを着けるとトイレへ行く必要がなくなり、運動量が減り足腰が弱り、寝たきりになることもあります。ですから、おむつを使用する際には、他に方法がないことを本人が自覚し、納得してから使うようにして下さい。

 おむつは、汚れたらすぐに取り替えるのが原則です。 おむつは通気性が悪く、皮膚呼吸を妨げ、汚れたまま長く放置すると、蒸れて悪臭を放つだけでなく、かぶれや床ずれの大きな原因になります。 汚れたらすぐに交換し、交換時には皮膚を清拭するか、ぬるま湯で洗い流すかして、清潔にしましょう。

●寝た状態でのおむつ交換の仕方

1.汚れたおむつを取ります。
2.防水シートと紙おむつを、おしりの下に敷き、おしりや陰部の汚れをぬるま湯や布切れ、トイレットペーパーを使ってきれいにし、水気が残らないように、おしぼりで拭きます。
3.新しいおむつを半分丸めてあてます。
4.仰向きにして丸めた半分を広げます。

●立った状態でのおむつ交換の仕方

1.手すりを持ってしっかりと立ってもらいます。このとき足は肩幅くらいに開いて立つとよいでしょう(安定するので)。
2.ズボン、パンツ(おむつカバー)をひざまでおろし、横向きの場合と同じようにおしぼりで前から後ろに向かって拭き、きれいにします。
3.新しいおむつの後ろの線を腰に合わせ介護者の体でおむつが落ちないように支えます。体を密着させると、おとしよりの転倒防止にもなります。
4.おむつをつける。両手でするときれいにつけることが出来ます。この時あまり上に上げると食い込んでしまうので、気をつけましょう。
5.パンツ(おむつカバー)、ズボンを引き上げ、足のつけ根や腰まわりなどがもたつかないように直す。

※ 引用文献:「おむつ交換」 <http://www.marimo.or.jp/~ganba/kaigo/care8.html>
(2010/08/20アクセス)

平成22年9月号

〜知って得する健康講座  第26集〜 片頭痛          熊本市民病院  神経内科 光藤 尚

 皆さんは、片頭痛という病気をご存知でしょうか?「えっ!片頭痛って病気なの?」と驚いた方も大勢おられると思います。実は、頭痛がお困りで神経内科を受診される方は非常に多いのです。片頭痛は診断基準のある、れっきとした病気です。今回は片頭痛を中心に頭痛に関してご紹介いたします。

 神経内科の守備範囲は広く、脳卒中(主に脳梗塞)やパーキンソン病、認知症、脳炎・髄膜炎など色々な病気を扱います。頭痛を訴えた患者さんが受診された場合、我々が先ず気をつけることは生命にかかわる頭痛かどうかをチェックします。以前は、生命にかかわらない頭痛だと患者さんに「帰宅して大丈夫ですよ。」とお伝えして診察は終了していました。しかし、実は、それだけでは患者さんの満足度の高い診療につながりません。最近は片頭痛をはじめとする生命にかかわらない頭痛も少しずつ病態が解明されてきましたし、特に片頭痛に関しては良いお薬がたくさん出てきました。そこで、頭痛の患者さんに満足度の高い医療を提供する動きが出ています。

 片頭痛にお困りの人はどのくらいいると思いますか?日本人の片頭痛の有病率は8%と言われています。特に若い世代において片頭痛でお困りの方が多いのが特徴です。愛知県春日井市の中学生を対象とした調査では頭痛の経験のある生徒は60%におよび、そのうち20%以上の生徒が学校生活に影響があると答えています。我々も山都町の2つの高校と3つの中学校の生徒を対象に同様の調査をしたところ、愛知県春日井市とほぼ同様の結果を得ました。頭痛の全てが片頭痛というわけではありませんが学校生活に影響を受けるほどの頭痛の中に片頭痛が潜んでいると考えられます。

 一般に片頭痛は女性に多く、10代の頃発症し、30代の頃症状のピークがあり、閉経期には症状が改善すると言われます。特に女性の場合、生理の始まる2日前くらいから月経が始まって2日目までの間に激しい頭痛が起こる月経時片頭痛というものがあります。月経時片頭痛では従来のお薬が効きにくいと言われます。このような方にはトリプタン製剤と言われる新しいタイプの片頭痛のお薬が有効な場合が多いので、お困りの方は神経内科の受診をおすすめします。

 片頭痛の方が神経内科を受診される場合、先ずお話を聴き、診察を行い、画像検査を行います。多くの場合、この時点で診断が確定し治療を開始いたします。その後は定期的に外来で頭痛の頻度、程度を確認しながらお薬の調整を行っていきます。頭痛でお困りの方は一度受診してみてください。


〜おいしく食べて、病気予防 第4集〜 下障糖尿病食とは
       栄養科調理師(給食用特殊料理専門調理師)栗屋 美佐子    監修 院長 水本 誠一

 今回は、治療食として提供している食事の中でも糖尿病食について紹介します。
糖尿病の食事療法は、ただ食事を減らせばよいものではありません。体格や性別・活動量などによって、その人に合った食事をすること、正しい食習慣と共に過食を避け、偏食せずに規則正しい食事をすることです。
目的は、血糖(血液中のブドウ糖濃度)の数値を正常化し、合併症(網膜症・神経障害・腎症・動脈硬化など)の発症・進行を防ぐためと同時に、健康で長生きするためのものです。
 昼食(普通食)を糖尿病食・糖尿病腎症食の一部に変えた場合、その内容の変化を簡単に紹介したいと思います。

普通食 糖尿病食 糖尿病腎症食

献立名と分量(グラム)・エネルギー量・塩分量

普通食

糖尿病食

糖尿病腎症

ちらし寿司ご飯 60

ご飯 100

特殊ご飯 140

冷麺・麺 120

麺  60

特殊麺  20

冬瓜煮物 80

同左   80

同左    80

梅ゼリー80

同左   40

特殊ゼリー 70

金平糖    6

びわ   60

びわ缶  70

600kcal
塩分2g

450kcal
塩分3g

450kcal
塩分2g


 普通食を糖尿病食に変えると、主にご飯や麺の量が減り甘さ控えめとなります。病気が進行し、糖尿病腎症食になった場合には、御飯・麺・ゼリーなどに特殊なものを使い、栄養の調整をして食べて頂きます。
一言で糖尿病食といっても指示されたエネルギー量など、その人の状態に合わせて味付けや分量、使う食品も違ってきます。その患者様に合わせた、おいしい食事作りに今後も努力したいと思います。


〜みんなで覚えよう家庭介護 第7集〜 寝具の調整      外来主任看護師 甲斐 美智代

 夏は暑くて湿度も高く、夜は寝付きも悪く睡眠不足になりがちの季節ですね。生活リズムや寝具を改善する事で眠りの質は向上させることが出来ます。

●そこで今回は寝床についてのお話です。

1) 寝具は寝室の気候によって、その種類や枚数を調節します。目安は汗ばまない程度に暖かくなるよう調節することです。ただし室温が25℃以上になると寝具による調節は不可能になります。
2) 畳の場合は、保温効果から見ると、掛け布団より敷布団を厚くするとよいでしょう。
3) 保温のためには首と肩を十分におおいましょう。
4) 頭寒足熱にすると眠りやすいと言われています。

5) 体にかかる寝具の重さは、習慣にもよります。しかし保温性がよければ、薄くて軽いものを選ぶと寝返り等も楽になります。
6) 枕は、高さ・硬さ・通気性を考慮して選びましょう。後頭部から首にかけての発汗は多いので、頭部が高温多湿の状態になると暑苦しく、それが刺激となって眠りにくくなります。そこで、夏場の枕は湿気を通す材質がよいでしょう。
7) 温度・湿度・埃によってカビや害虫が発生・増殖するのでその予防をしましよう。
A: 部屋の換気・通気をよくしましょう。
B: 万年床を避けましょう。
8) 寝具は乾燥と消毒をかねて日光にあてましょう。紫外線量の多い午前10時から午後2時過ぎごろが適しています。

●ベッドについて

1) 高さは利用される方からすると、歩行可能な場合は膝を直角にして足が床につく高さであると立ちやすく安全です。
2) 介護者からすると、立った状態で肘を軽く曲げた姿勢で両手での作業が出来る高さがよいでしょう。
3) 介護保険で要介護2以上の方はレンタルベットを利用することが出来ます。またそれ以下(要介護1、要支援)でも自費でレンタルできる会社もありますのでお気軽にご相談下さい。

<<引用文献>>※氏家幸子(2005)『基礎看護技術T』第6版(2005年3月1日)pp.221〜223 医学書院 

平成22年8月号

〜知って得する健康講座  第25集〜 慢性硬膜下血腫            医師 米山 哲司

●はじめに
 「認知症」とは、正常であった脳の知的な働きが、生まれてからしばらくたってから起きたいろいろな病気によって、持続的に低下した状態のことです。その原因となる病気には多くのものがありますが、大半は、脳血管性認知症(脳の血管に異常が起きた結果、認知症になるもの)とアルツハイマー型認知症(脳の細胞が変性・消失した結果、脳が縮んで認知症になるもの)で、認知症全体の8割から9割を占めると考えられています。残念ながらこれらの認知症を完治する方法はありませんが、残りの1から2割の中には治療できる認知症もあります。今回はそのようなタイプの認知症をきたす疾患の1つである慢性硬膜下血腫のお話です。

●慢性硬膜下血腫とは
 頭部の頭蓋骨の下にある脳を覆っている硬膜の下の脳との隙間に血(血腫)が貯まる病気で、血腫が脳を圧迫して様々な症状を示します。 高齢で男性に多く見られます。

●慢性硬膜下血腫の原因は
 一般には軽微な頭部外傷により、脳と硬膜を繋ぐ橋静脈が破裂することで起こります。しかし頭部外傷があったかどうかわからない場合にもみられることもあり、以下のことが発症に影響するともいわれています。

1)大酒飲み
2)脳に萎縮があり、骨と脳の間の隙間が広い
3)血が止まりにくい(出血傾向がある)
4)脳梗塞の予防の薬(血液サラサラの薬)を飲んでいる
5)頭部手術の術後
6)透析をしている
7)硬膜に癌がある

●症状
 典型例では簡単な頭部外傷後.数週間の無症状期を経て頭痛、嘔吐などの頭蓋内庄亢進症状,片側の麻痺(片麻痺)やしびれ、痙攣、言葉がうまく話せない(失語症)などの局所神経症状、呆けや意欲の低下などの精神障害と、さまざまな神経症状が見られます。
 若年者では主に頭蓋内庄亢進症状や局所神経症状がみられます。
 高齢者では潜在する脳萎縮のため頭蓋内圧亢進症状は少なく,痴呆などの精神症状,失禁,片麻痺(歩行障害)などが主な症状です。尚、痴呆だけで発症することもあります。

●診断
 問診・症状より慢性硬膜下血腫を疑いますが、診断を確実にするにはCTスキャンまたはMRIが有効かつ必須です。

  血腫部位

MRI: 正常

慢性硬膜下血腫

●治療
 基本的な治療法としては脳神経外科的治療が推奨されています。当院では脳神経外科がありませんので、診断つき次第、専門医が常勤する病院へ紹介しています。

●最後に
 慢性硬膜下血腫のほとんどは、正しく診断がなされタイミングを逸することなく治療が行われれば完治する予後のよい疾患です。そのためには、急に認知症状が見られた場合には慢性硬膜下血腫を疑うことも重要で、当院を含め最寄りの医療機関にご相談していただけたらと思います。


〜おいしく食べて、病気予防 第3集〜 下障害(飲み込みが悪い)の方にやさしい「ソフト食」について(その3)
                      栄養科調理師  原 美鈴    監修 院長 水本 誠一

 家庭の食事作りをずっとしてきた私が、病院調理師として勤務して2年目になります。
 病院の食事作りを経験してみると、患者様の人数はもちろんのこと、病状の変化に伴って食事内容も刻々変化し、その変化に応じて作っていかなければいけないこと、そしてその治療食は細やかな作業が要求されること等その大変さをつくづく痛感しました。更に、自分の身のまわりだけでなく、調理室及び調理器具等の清掃消毒を徹底的に行い清潔を保たなければならないということでした。

 そんな中で普段の治療食作りとは別に、ソフト食作りが始まり私も参加しました。栄養科内で試作・試食・検討を何度も繰り返しました。先生方にも試食していただき貴重な意見をいただきました。

   

  市販の「ソフト食」も出回ってきましたが、コスト面から有利で食感の良いソフト食をやっとの思いで完成することができました。

   

 また、誰が作っても同じものが作れるようにマニュアルも完成しました。今後、このマニュアルに沿って作り、嚥下障害(飲み込みが悪い)の方にやさしい「ソフト食」を提供していきます。
 最初は何も判りませんでしたが、同僚の方々のお陰で仕事も徐々に覚えてきました。患者様それぞれに合わせた食事作りに多忙な毎日ですが、おいしそうに食事をとられている患者様の姿をみると、「安全な食事作りをしなくてはいけない」と責任を感じる今日このごろです。やりがいのある仕事なので、今後も頑張っていきたいと思います。
 なお、ご家庭や施設などで「ソフト食」を作ってみたい方はマニュアルをご提供致しますのでいつでもご連絡ください。


〜みんなで覚えよう家庭介護 第6集〜 フットケア        一般病棟看護師 甲斐 三栄子

  皆さんは自分の足を毎日観察していますか?ただ何気なく見ているだけでなく、指の間や足の裏もよく見ていますか?今回は糖尿病や高齢者の方の合併症として最近注目されている足病変についてのお話しです。「私は糖尿病じゃないから関係ないわ」と思わずに読んでいただければ幸いです。

 足病変ですが、観察のポイントは大きく分けて4つです。

● まず1つめは、白癬(いわゆる水虫)です。水虫には3つのタイプがあります。水虫が爪に感染すると、爪白癬となります。

小水疽型: 赤味がかかった小さな水ぶくれで、強いかゆみを伴います。
角化型: かかとを中心に足の裏の広い範囲で、皮膚の角化が起こりますが、かゆみがないため、水虫という自覚がない方が多いようです。 趾間型:足の指の間にできる水虫で、一般的に認識しやすい症状です。ジクジクしており、放置しておくとただれます。
爪白癬: 爪白癬があると、爪が白く濁り、厚く硬くなるので爪切りが困難になります。蜂窩織炎(皮膚感染症の一つ)の原因となったり爪がボロボロになるので靴下を履くときに引っかけやすくなったりします。

●2つめは胼胝(タコ)と鶏眼(ウオノメ)です。

鶏眼: 繰り返し圧迫を受ける部位の角質が肥厚し、楔(くさび)状になって皮膚に食い込むもので、米粒を踏みつけているような痛みを伴います。
胼胝: 圧迫や摩擦によって角質が肥厚したものですが、皮膚の外側に向かって、広く硬い板状を形成します。

●3つめは巻き爪と陥入爪です。

巻き爪: 爪の彎曲異常で、靴で圧迫されやすく、爪切りも困難になります。巻き爪の根本的な治療には外科的な治療法がありますが、医師と相談して検討しましょう。
陥入爪: 皮膚に爪が食い込んでしまっている状態をいい、原因は不適切な爪切りにあります。疼痛と炎症を繰り返し、やがて肉芽を形成していきます。これも外科的な治療法があります。  

●4つめは足の色と形です。
 皮膚が暗紫色に変色していないか、外反母趾など変形がないかを見ます。

●足病変をおこさないために…

1.足をよく見て、清潔にしましよう。入浴時は足の指の間もよく洗いましょう。入浴が困難なときは、足浴をすると良いでしょう。
2.爪は慎重に切りましょう。深爪をしないようにします。1回でパチンと切り落とすのではなく、少しずつ切りましょう。爪の角は切り落とすのではなく、爪やすりで軽くこすり、切り口をなめらかにする程度にします。陥入爪や巻き爪のある方は、自分で切らないようにします。
3.自分の足のサイズにあった靴を選びましょう。靴屋さんで計測してもらうのも一つの方法です。ヒールの低い靴や、足の指がある程度動かせる靴がベスト。
4.足の異常を見つけたら、自己判断で処置をせず、医師または看護師へご相談下さい。

平成22年7月号

〜おいしく食べて、病気予防 第2集〜 嚥下障害(飲み込みが悪い)の方にやさしい「ソフト食」について(その2)                     栄養科調理師 竹岡つきみ   監修 院長 水本 誠一

 前回に続き今回は、ソフト食の内容について具体的な紹介をすることになりました。
「ソフト食」とは、形がありながらも口への取り込みがよく、上あごと下でつぶせる硬さ、飲み込む時に滑りがよい、しかもおいしそうに見える食事のことです。
 現在“飲み込みが困難な方に、やさしい食事を”という目的の下、この「ソフト食」を一日も早く患者様に提供できるよう試作検討を繰り返しているところです。
 これまでであれば、患者様の飲み込みの程度に合わせて小さく刻んでみたり、一品一品ミキサーにかけて硬さを調整してみたりしていたものを、更に飲み込みやすく見た目にもおいしく見えるように更に改良したものです。

 今回は、昼食や夕食の主菜となるものを紹介したいと思います。

 献立は、焼き魚と煮物を組み合わせた一皿です。魚は、白身魚を塩焼きにしました。煮物の食材は、南瓜・大根・人参です。

 作り方‥白身魚に適量の塩をふりオーブンで焼きます。野菜の煮物は、調味料(砂糖、薄口醤油、だし汁)で煮含めます。出来上がった魚、南瓜、大根、人参をそれぞれミキサーにかけます。更に個別にトロミ調整剤を使って程良い硬さにし、型に移して固めます。これは、冷蔵庫に入れず常温で固めます。固まったら型から取り出し器に盛り付けます。

 苦労した点‥魚や野菜をミキサーにかけた時、それぞれの濃度が違うため、トロミ調整剤を加えた場合、軟らかすぎたり硬めになったりして、なかなか程良い硬さに出来上がるまで大変時間がかかりました。
味はもちろんのこと形や硬さ、喉越しのよさを工夫し見た目においしそうに見えるでしょうか。
まだまだこれからという段階ですが、試行錯誤を重ね一日も早く患者様においしく食べていただけるよう努力していきたいと思います。

普通食 ソフト食

〜みんなで覚えよう家庭介護 第5集〜 寝トイレ介助と移動      域医療連携科主任看護師 梶原 マリ

 皆さんこんにちは。六月に入り朝・昼の気温差が大きい日が続いていますが、体調はいかがですか?衣類の調整で健康な生活を送りましょう。
 さて、今回は、排泄のお世話の一部「トイレ介助と移動」についてお話したいと思います。 排泄の世話は俗に「シモの世話」と言われ、誰しもされたくないものです。本人が恥ずかしがったり、気兼ねしないよう、気配りを忘れないことが大切でしょう。
 一日の排泄時間をメモに残し、サイクルを把握することや、なるべく自力で排泄できるようにすることも大切です。 歩ける人はトイレへ行きましょう。また、なるべく連れて行ってあげましょう。それができなくなったら、ポータブルトイレ、尿器、便器やオムツを使用することになります。

●トイレの工夫
1.寝室はトイレに近いところを選びましょう。
2.廊下やトイレに手すりをつけ、段差を無くし明るく安全な環境を整えましょう。
3.和式の場合は腰掛便器をのせ、洋式にすることもいいでしょう。
    ・足腰が弱い方の場合、洋式が適しています。
4.トイレの中と外の温度差をなるべく少なくしましょう。
   ・ストーブ等を利用しましょう。                  

●ポータブルトイレの工夫
1.安定性があり、しっかりした手すり・背もたれがあるものを選びましょう。
2.やせてお尻の小さい人には、小さめの便座を選びましょう。
   ・手すりを取り付けることもできます。
   ・仕切りなど使用しプライバシーに配慮しましょう。
   ・ベッドと同じ高さに調整し、移動しやすくできます。

●ポータブルトイレへの移動
1.自分で移る場合(図.2)
   浅く腰掛けた位置から、ベッド柵やベッドの縁、トイレの縁などに手をかけて体を支え腰を上げてゆっくりとお尻をトイレの方に向けて座る。   


2.手伝ってあげる場合
 1.片足を膝の間に差し込んで、両手で腰を支えて立ち上がらせる。
 2.膝を介護者の膝で支えながら、ゆっくりとお尻をトイレの方へ向け、下着を下ろして座らせる。
   ・「いち・にの・さん」と声かけしながら、協力してもらいましょう。
   ・トイレを知らせず、衣類・布団を汚したり、便器を汚しても怒らないようにしましょう。
   ・冗談でも臭気については、口にしないようにしましょう。
   ・安心できるよう、明るく声かけをしましょう。

 以上のようなことに、気をつけてはいかがでしょうか。この他、介護や看護でお困りのことがございましたら、遠慮なくお尋ね下さい。

 

 

 

 


〜お知らせ〜

 第十七回蘇陽病院 院内学会が下記日程にて開催されます。特別講師として熊本保健科学大学特任教授 竹熊 千晶先生が来られる予定です。

と き:平成22年7月3日(土)  ところ:馬見原公民館

時   刻 学 会 内 容

竹熊 千晶先生のプロフィール
熊本市生まれ
地域の文化に焦点をあてた看護とその中での地域ケア・システムについて研究中。
平成22年4月より「NPO法人老いと病いの文化研究所われもこう」を設立し、代表を務める。病気や障害があり、医療依存度が高い方で、介護者が高齢であったり、子どもたちが遠距離で、自宅で介護することが困難な状況の時、自分の家のような場所で、地域の中で暮らせるような支援を模索中。民家改修型の研究所兼ホームホスピスを展開されている。

9:00 研究発表
10:30予定

特別講演 「のさり」からみる「老い」のゆくえ
講 師  竹熊 千晶 先生

 

平成22年6月号

〜知って得する健康講座  第24集〜 早期胃癌の内視鏡治療            医師 井野 裕治

 だいぶ暖かくなってきましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか? 今回は私の生業とも言える内視鏡(胃カメラ、大腸カメラ)についてお話させていただこうと思います。

 まず内視鏡と聞くと痛い、苦しいというイメージを連想される方が多いと思われます。しかし当院では鎮静薬および咽頭麻酔を十分に行うこと、無理のない挿入手技を実践することで患者さんの苦痛が少なくなるように努めています。

 以前は内視鏡と言えば検査(観察)のみしかできなかったのですが、近年では治療を行う内視鏡が盛んになりました。代表的なものが大腸の良性ポリープを切除する大腸ポリペクトミーです。(図1)

図1

 また、たとえ悪性(癌)であっても、早期の癌であれば内視鏡で切除することが可能です。お腹を切らないため、術後の傷跡もなく、何よりも胃袋が小さくならないため、術後に食事が摂れなくなり激やせすることがありません。

 方法としては、病変の直下にヒアルロン酸を注入し、切りしろを大きくした後、特殊な電気メスを用いて病変の周囲を切除していきます。当院には3種類の電気メスを用意し、病変にあった種類の電気メスを選択するようにしています。(図2)は当院で施行した治療の1例です。

図2

 この処置はどんなにサイズが大きくても施行可能です。しかし癌の根が深いと、穿孔したり(胃に穴があくこと)、取り切れず癌が残ってしまうため施行が困難になります。よっていかに早期の段階で見つけるかが、重要になってきます。 症状が出てからでは遅いことが多いですので、人間ドック、検診などの機会を利用し、定期的に検査を受けるように心がけましょう。

 最後に二言。
● 当院では胆道系の内視鏡治療(総胆管結石のなど)も行っています。(図3)
● またダブルバルーン内視鏡を用いて、小腸(胃と大腸の間の腸管)の観察も行うことが可能です。

図3
 

〜おいしく食べて、病気予防 第1集〜 嚥下障害(飲み込みが悪い)の方にやさしい「ソフト食」について(その1)                     栄養科調理師 甲斐 靖    監修 院長 水本 誠一

 食べることは人間生活の上で最も基本的なことであり、大きな楽しみでもありますよね。そして、病気治療や予防においても実はとっても大切なことです。そこで、今月から様々な病気に適した食事やメニューをシリーズで紹介してゆきます。よろしくお願いいたします。

 年齢を重ねてゆくと、食べものを飲み込む(嚥下)時に“むせこむ”ことがありますよね。これは嚥下するときに首やのどの筋肉が協調して十分に動かないために、食べ物や水分の一部が食道ではなくて気管(空気の通る道)に入り込んでおきる現象です。脳梗塞などの後遺症で起きることが多いのですが、単なる老化現象のこともあります。これが原因で肺炎(嚥下性肺炎)を起こすこともあるのです。これらの患者さんにも食べやすいように工夫されたのが「ソフト食」です。

 しっかりと形があり、口への取り込みがよく、上あごと舌でつぶせる硬さで、飲み込む時に滑りが良い、しかもおいしそうに見える、などの条件が求められます。蘇陽病院ではこれらの条件を満たすような「ソフト食」をいろいろと試作しながら提供しています。写真のような出来栄えですが、おいしそうに見えますか?それでは、ご家庭でも参考にしていただけるように、次号からその詳細な内容について解説してゆきます。


〜みんなで覚えよう家庭介護 第4集〜 寝返り            一般病棟主任看護師 岩下まゆみ

 高齢化社会を迎え、家庭内でお年寄りを介護する事が多くなりました。特に寝たきりの場合は「寝返り」という動作が介護のポイントとなります。排泄や着替えなど毎日の世話は寝返り動作を活用することでスムーズに出来ます。また、この動作を数多く取り入れると寝たきりの改善や床ずれ、肺炎、膀胱炎などの予防にもつながります。

 床ずれは専門用語で褥創(じょくそう)といい介護する上で最も注意しなければならない合併症です。体や寝具の重みによる圧迫が原因で皮膚や皮下組織の血液の巡りが悪くなり潰瘍(かいよう)ができます。

 介助といっても様々な介護レベルがあります。一番軽いのが「見守り〜声かけ誘導」です。自力で出来そうな方には環境を整えた上で、手でものにつかまるまで腕を誘導してあげます。また、片足でも立ててあげること、あるいは本人が寝返ろうしている瞬間に立てた足を横に押してあげること、それだけで寝返りは容易になります。

 意識もないような方への寝返り全介助についても、できるならば自立〜半介助で少しでも自立性を高めるための条件を整えます。具体的には少しでも膝が立てられるのなら、その上で寝返りさせること、寝返りして側臥位(腕を下にして横になった状態)になった時点で下肢が屈曲していないと側臥位が安定しませんから、自力であっても全介助であっても膝を立てる〜曲げるというのは必要なことになります。 体幹も下肢も完全に拘縮してしまっている方への寝返り介助は下に敷いたバスタオルごと引っ張りあげて寝返りさせるのが一番楽です。

 たとえ起座できない方でも寝返りだけでも頻繁に行ってくれていれば褥創の心配はずっと減ります。テレビ、ラジオ、雑誌や水のみなどを、寝たままであっても操作しやすいようにベッドの両脇にセットしたり色々な工夫が出来ると思います。そして、そんなふうに寝返り動作だけでも能動的に行えれば上下肢とも曲がったままかカチカチに拘縮してしまうことは避けられるはずです。

 意識もないような重度な方の場合、全介助で寝返り介助〜体位交換を熱心に行っても、どうしても褥創や拘縮の発生は防ぎきれないかもしれません。そんな方にこそ実は車椅子座位の時間をとることをお勧めします。褥創予防や拘縮予防には何よりの手段になりますし、沈下性肺炎や尿路感染の予防にもなります。

 床ずれ予防器具として、床ずれ予防用エアマットレスや、低反発素材を使用した床ずれ予防マットレスなどがあり、長時間同じ体位で横になっていても、皮膚へかかる圧力を軽減できる構造になっています。また、体の部位ごとの使用に適したクッションなどもあり、お尻や背中、腰などの部位に合わせて敷くことで床ずれの出来ない面を保護することが出来ます。またこのようなクッションは介護者による要介護者の体位変換時の補助的な役割も果たすため、体位変換がスムーズに行え、介護者の負担軽減にも繋がります。

 力任せの介助は本人の持っている機能や能力を活用できなく、反対に弱めてします。また、介助者自身の体も守れませんのでご注意ください。


〜新人紹介〜

理学療法士 興梠 ともみ
  4月1日より理学療法士として蘇陽病院に勤務する事になりました興梠ともみと申します。私は生まれも育ちも山都町なので地元の蘇陽病院で働く事ができ大変嬉しく思います。3月に専門学校を卒業し免許を取得したばかりで毎日勉強の日々ですが、患者様との触れ合いがとても楽しく充実した日々を送っています。また、リハビリを行うことで出来なかった動作や困難だった動作が出来るようになられ、元気に退院されていく姿を見ることが何より嬉しく理学療法士としてやりがいを感じております。

 私の目標は患者様が安全に充実した生活を送れるように個人に合ったリハビリを提供していくことであり、笑顔を絶やさず明るく元気に患者様の回復のお手伝いをしていきたいと思います。  私はリハビリ室にいることが多いですので病院に来院された際などはお気軽にお声掛けください。一生懸命頑張りたいと思いますので宜しくお願い致します。

看護師 山下 里奈
  4月1日より看護師として蘇陽病院に勤務する事になりました山下里奈と申します。 臨時期間での一年間を本院で過ごし、採用試験で晴れて合格し蘇陽病院の正職員になることができ大変嬉しく思います。 この一年間で学んだことは忙しい時でも余裕を持って患者様各々の思いを適切に対処していく事であり、これからも一層 速やかで正確な看護が出来るように笑顔を絶やさずに頑張っていこうと思います。

 目標として救急医療や内視鏡等、その他資格を自己研鑽の為取得していき様々な分野で速やかな対応が出来るように邁進していきたいと思います。

 最後に私は外来にて勤務しておりますのでご来院時にはお気軽にお声掛けください。お待ちしております。

興梠ともみさん(左)と山下里奈さん(右)
平成22年5月号

〜知って得する健康講座  第23集〜 骨粗鬆症とは?(40歳までに骨の密度を測定しよう!)副院長 大城 一

 今回は骨粗鬆症についてのお話です。

【骨の仕組み】
  骨は「皮質骨(ひしつこつ)または緻密骨(ちみつこつ)」と「海綿骨(かいめんこつ)」という2種類の骨から成り立っています。腕や下肢などの長い骨は皮質骨が厚く、衝撃に強い構造をしています。一方、背骨などは海綿骨の割合が高く、カルシウムの代謝などの影響をうけやすい構造をしています。

【どんな病気?】
  骨の量が減って骨が弱くなり、骨折しやすくなる病気です。古くは古代エジプト文明時代からある病気なのですが、近年寿命が延び、高齢者人口が増えてきたため、特に問題になってきています。
  日本では、約1,000万人の患者さんがいるといわれており、高齢者人口の増加に伴ってその数は増える傾向にあります。
  骨粗鬆症では骨の構造から見ると、皮質骨よりも海綿骨で骨の量の減少が明らかです。海綿骨の量が減ると、複雑にからみあったジャングルジムのような網目構造がくずれて、あちこちでジャングルジムの「棒」(骨梁:こつりょうといいます)がなくなっていくので、骨が弱くなるのです。
  骨が弱くなると、ちょっとしたことで骨折しやすくなります。

 骨粗鬆症が問題になる理由をあげますと,次のようになります。

●高齢者の寝たきりの原因のうち約20%が「骨折」といわれています。中でも「大腿骨(だいたいこつ)」という太ももの骨の骨折が問題となります。つまり、骨折をきっかけに寝込んでしまうと、骨折が治った後も自力で歩くことが困難になります。
●背骨が圧迫されてつぶれていく(圧迫骨折といいます)と、背中が丸くなり内臓が圧迫されるため消化不良や便秘になったり、食べたものが食道に逆流しやすくなり胸焼けがしたりします。
●背中や腰などに、骨折に伴う痛みが出てくることがあります。
●痛みのために、日常生活での動作が制限され、行動範囲も狭まってしまいます。

【どんな人が骨粗鬆症になりやすい?】
  骨粗鬆症は、多くの原因が複雑に関係して発症する病気なので、原因をひとつだけに決めることは出来ません。 下にあげた各項目は主なものを示しています。

加 齢
性ホルモン産生の低下のほかに、年をとると骨芽細胞(骨をつくる細胞)の働きが弱くなります。また、腎臓の働きも低下するため活性型ビタミンDがつくられにくくなったり、食事の量が少なくなったりするため、カルシウムの吸収量が低下します。
カルシウム摂取量が少ない・偏食
乳製品をとっていなかったり、偏食して栄養バランスが偏ったりすると、食物からカルシウムなどが十分にとれなくなります。
閉 経
閉経に伴って女性ホルモンが急激に低下すると、破骨細胞(骨を壊す細胞)の働きに骨芽細胞の働きが追いつかなくなります。
運動不足
適度な運動で骨に刺激を与えると骨は丈夫になります。反対に、運動しなくなると骨はだんだん弱くなっていきます。
日光に当たらない生活
日光に当たると、皮下でビタミンDが合成されます。ビタミンDは腸からカルシウムを吸収するために必要な物質です。
喫 煙
ニコチンは、腸からのカルシウムの吸収を阻害し、カルシウムを尿中に排出します。また骨芽細胞の機能低下も引き起こします。
嗜好品のとり過ぎ
コーヒーなどに含まれるカフェインのとり過ぎや、過度の飲酒は骨量の減少につながります。
極端なダイエット
食事を極端に減らすダイエットは、栄養不足、特にカルシウム不足の原因になり、骨量の減少を招きます。

【症状】
  骨の新陳代謝は、皮質骨よりも海綿骨でより活発に行われます。そのため、骨代謝に異常が生じると、海綿骨でまず変化がおきます。骨粗鬆症では海綿骨の量がまず減っていくため、海綿骨の占める割合が比較的多い背骨などが最初に弱くなっていきます。


  背骨が骨折をおこしてつぶれると、腰が曲がったり痛みが出たりします。身長が低くなることもあります。
  ただし、骨粗鬆症になっていても症状が出るとは限らないので、「腰が痛くないから骨量は大丈夫」、とはいかないのです。

【治療】
  骨粗鬆症の治療の目的は、「骨折を予防し、QOL(Quality Of Life:生活の質)を保持・改善する」ことです。骨粗鬆症の治療は、食事療法・運動療法・薬物療法で成り立っています。食事・運動・日光浴は、予防にも効果がありますので、日頃から気をつけたいものです。

食 事:
十分な量のカルシウムをとる。
運 動 :
骨に力をかけることで、骨を強くする。
日光浴 :
日光にあたると皮下でビタミンDがつくられる(腸からのカルシウムの吸  収を高める)。昼間に30分ほど外にいるだけでも十分(夏は日陰でもよい)。

●食事療法
  日本人は慢性的なカルシウム不足だと言われています。日本人のカルシウム1日所要量(最低とるべき量)は600mgとされていますが、諸外国に比べ、この値はかなり低いものです。にもかかわらず、この値すら達成できていないのが現状なのです。さらに、骨粗鬆症の治療ガイドラインでは1日800mgのカルシウムの摂取を勧めていますので、日々の食生活の中で積極的にカルシウムをとるようにしてください。 また、骨のためにはカルシウムだけでなく、ビタミンDなどほかの栄養素にも気を配らなければなりません。

<カルシウムが多く含まれる食品>
  カルシウムは、食べた分すべてが吸収されるわけではないのです。個人差もありますし、食品によって含まれるカルシウムの吸収されやすさが違います。カルシウムを多く含む食品、カルシウムが吸収されやすい食品をつとめてとるように心がけましょう。
  乳製品、魚介類、大豆、野菜、海草類

<ビタミンDが多く含まれる食品>
  ビタミンDは食品から得られるほか、日光に当たることによっても皮下で合成されます。また、腎臓・肝臓でビタミンDが活性化されると、腸でのカルシウムの吸収を助けます。
  魚類、卵黄など

<注意したほうがよい食品>
  スナック菓子、インスタント食品、炭酸飲料にはリンが多く含まれています。リンは体に必要な栄養素ですが、とりすぎるとカルシウムの尿中への排出を促進し、またカルシウムの腸からの吸収を妨げるので、これらの食品はとりすぎに注意しましょう。

●運動療法
<骨をいたわりながら強くする>
 骨粗鬆症の患者さんは、すでに骨折をおこしていたり、おこしやすくなっていたりします。「運動などしないで安静にしたほうがよいのでは?」と考えるのは間違いです。運動をしないでいると骨は次第に弱くなっていくのです。骨に適度な力(主に体重)をかけることで、骨の強さは維持されるのです。例をあげると、宇宙飛行士は無重力に近い状態にいるため体重が骨にかからず、意識して運動をしないでいると、短期間で骨の量が飛行前より低下したというデータがあります。
  また、運動によって筋力が維持され、反射神経もよくなるので、転びにくくなるとも考えられます。

<自分にあった適度な運動を継続すること>
  骨粗鬆症の人のための運動は、散歩、立っている時間を長くする、買い物に歩いて行く、家の掃除をする、エレベーターの代わりに階段を使うなど、スポーツでなくても体を動かすことができればよいのです。
  また、運動は続けて行うことが必要です。散歩であれば30分ほど、そしてできれば毎日することが効果的です。仲間と一緒にできるようであれば、楽しく続けられるでしょう。写真を撮りながら歩いたり、万歩計の歩数も楽しみのひとつになります。

<おすすめの運動>
  骨に対する運動の効果の現れ方は、一般に運動の時間が長いほど、また骨にかかる力が大きいほど、著しいとされています。しかし、強い運動は運動習慣のない中高年の人には不適です。軽い運動であっても、時間を十分かければ効果があります。体力や骨折のおこりやすさは個人差がありますし、高齢者では他の病気の合併も考えられますので、運動を始める前に主治医と相談するようにしましょう。

○持久運動
  ウォーキング、ジョギングなど
○骨にかかる力の大きい運動
  バドミントン、テニス、バレーボール、エアロビクスなど

体力に自信のない方や何年も運動していないという方は、無理をせず、とにかく外に出て歩いてみることから始めましょう。外に出かければ日光浴もできるので、骨のためには一石二鳥です。

逆に、重い物を持ち上げる、強く体をねじる、転倒の危険があるといった運動は要注意です。


●薬物療法
  骨粗鬆症の薬物療法は、食事療法・運動療法の上に成り立っています。つまり、食事からカルシウムやビタミンDなどをしっかりとること、運動すること、適度に日光を浴びることなどをきちんと行った上で、必要に応じて医師が薬を処方することになります。また、薬剤を飲んでいても、食事や運動に気をつかう必要があります。 主な骨粗鬆症治療薬の分類 多くの種類の薬剤があります。このうちいくつかを組み合わせて治療に用いることもあります。薬について分からないことがあれば、主治医か薬剤師に尋ねましょう。

カルシウム製剤
乳酸カルシウム
リン酸水素カルシウム など
乳製品が苦手なお年寄りなど、食事からのカルシウム補給が十分でない場合
エストロゲン製剤
(女性ホルモン製剤)
エストリオール
結合型エストロゲン
閉経後に低下した女性ホルモンを補充する
イソフラボン製剤
イプリフラボン
骨形成促進作用(骨を増やす作用)もあるといわれており、作用がおだやか
カルシトニン製剤
サケカルシトニン
ウナギカルシトニン
注射薬しかないので週1〜2回の通院が必要だが、腰痛に対する効果も期待できる
ビスフォスフォネート製剤
エチドロネート
アレンドロネート
リセドロネート
破骨細胞の働きを強く抑え、骨量が増加する。
活性型ビタミンD製剤
アルファカルシドール
カルシトリオール
ビタミンDの摂取量が低下している場合や、老化などにより産生が低下している場合、またカルシウムの摂取量が少ない場合に
ビタミンK製剤
ビタミンK2
骨形成の増加が期待できる

食事・運動・生活環境に気をつけることで、骨量の減少をくいとめたり骨折を避けたりすることができます。毎日コツコツ積み重ねて、骨粗鬆症を予防しましょう。

【検査】

● どういう検査をするの?
  超音波を用いて踵の骨の密度を測定します。

● 何歳くらいから受けるとよいの?
  女性の骨量は50歳を過ぎると急激に低下します。できれば40歳くらいまでに一度骨量を測定しておき、ご自分の骨量のピークを知っておくとよいでしょう。閉経後は年1回ずつの測定で経過を観察するとよいようです。また男性は腎臓・胃腸の病気や長期の寝たきり状態などがなければ、70歳くらいまでは骨量測定の必要はないと言われます。


〜みんなで覚えよう家庭介護 第3集〜  自宅でできる転倒予防     理学療法士 浅田 克彦

●高齢者の転倒と寝たきりのおそれ
  ちょっとしたはずみに転倒したことがきっかけで、介護が必要になってしまう高齢者の方が多くおられます。高齢になるほど衰弱や転倒・骨折の割合が増加します。その結果、そのまま寝たきりになる方も少なくありません。
  高齢になると、下半身の筋力やバランス感覚、視力が低下し、転倒しやすくなります。しかも女性の場合、60歳を超えると骨粗しょう症にかかっている方の割合も高くなり、ふとしたはずみの転倒でも骨折につながることが多くあります。
  転倒すると反射的に手をついて体を支えようとするため、手首を骨折するケースが多くあります。しかし手をつくこともできず、お尻から転倒して骨盤の付け根の関節(大腿骨頸部)を骨折すると、歩行障害が残りやすく、高齢者ほど寝たきりになる傾向が強くなります。

●転倒予防と運動
 日常生活の中に軽い運動を取り入れることによって、からだは丈夫になり、転倒予防に効果的な足・腰・腹部の筋力アップやバランス能力、歩行能力が改善されます。それによって、日常生活の活動範囲が広がり、生活機能が高まります。年齢や体力、健康状態などに応じて無理のない日常的な運動を続けることが大切です。

●体力の低い高齢者向けの運動プログラム (足の筋力アップ)

1)片足体重かけ

その1
(1) 足を左右に開き、両手を腰に当てる
(2) 両足の裏を床に付けたまま、片足に体重をかけ、10〜15秒間停止する
(3) 背中を伸ばし、左右交互に5〜10回行う
(4) 大腿により強い負荷をかけるためには、伸ばした足の踵をあげる

その2
(1) 足を前後に開き、両手を腰に当てる
(2) 両足の裏を床に付けたまま、前足に体重をかけ、 10〜15秒間停止した後、元に戻す
※膝に負担がかかるので、膝が痛い人は無理にしないようにしましょう。

2)足首の伸展・屈曲
(1)両足を揃えて、膝を伸ばして座る
(2)両手は後ろにして軽くつけ上体を支える
(3)背中を伸ばす
(4)両足を最大に内側に反らし、5秒程度停止した後、外側にしっかり伸ばす。この動作を5〜10回反復する
(5)下肢により強い力を入れるためには、反らす時に踵を持ち上げる気持ちで行うと効果的である。

3)片足上げ
(1)両手を後ろに、背中を伸ばして座る
(2)膝を曲げる
(3)片足を伸ばしながら持ち上げる
(4)上げて、5秒程度停止した後、ゆっくりと下ろす
(5)片足ずつ5〜10回反復する

 なお、ここで紹介させていただいたのは足の筋力トレーニングの一部ですが、転倒予防には足の筋力以外にも、腰や腹部の筋力アップやバランス感覚の向上など、トータルでの身体機能のアップが望まれます。お気軽に当院の理学療法士までお訊ねください。

●転倒予防と住環境の見直し
  転倒を防ぐためには、日頃から適度な運動をして筋力の低下を防ぐことが最も大切ですが、住環境を見直すことも重要になってきます。高齢者の転倒予防対策として特に適しているのは手すりの設置や段差の解消ですが、工事が必要となったり、費用もかかります。そこで、日ごろ何気なくつかまっていたり、よく手をつく場所に椅子を置いたり、家具の配置を変更してみるのも一案です。玄関の 上がりかまち の大きな段差には、間に少し低い安定した足置きを置いたり、上がりかまち に滑り止めのマットを敷くなど工夫するとよいでしょう。

《引用文献》
※1「高齢者の転倒予防を目指す運動プログラム」東京都老人総合研究所疫学部門
※2「家の中は危険がいっぱい!?簡単にできる転倒予防対策」healthクリニック

平成22年4月号

〜知って得する健康講座  第22集〜 上手なアルコールの飲み方      院長 水本 誠一

 長かった冬もようやく終わり、ずいぶんと春めいてきました。これから「飲み方」も多くなってくる季節ですね。そこで今回はいつもの難しい話とはやや離れて、上手なアルコールとの付き合い方について述べてみます。皆様の中には既に飲酒のベテランで、自分なりの極意を習得されている方もたくさんおいででしょうから、今回は質問形式で記述したいと思います。

Q1、ストレスはお酒で解消されますか?
 答えはイエスとノーです。 ストレスだらけの現代生活ですが、飲酒は確かにストレス解消になります。飲酒は、ストレス状態で起こってくる体の緊張状態を和らげ、精神もリラックスさせてくれます。それに、コミュニケーションの道具としても、お酒はストレス解消の妙薬です。 しかし、ストレス解消のための飲酒は度がすぎてしまいがちです。量が過ぎれば、体に悪いだけでなく、喧嘩など人間関係の上でも逆にストレスが増大します。あくまでも飲酒によるストレス解消は本質的なものではなく一時的な気分転換にすぎません。スポーツ・趣味・娯楽などと適度の飲酒をうまく組み合わせて、ストレス解消を図ることが大事です。

Q2、ぐっすりと安眠できるお酒の飲み方は?
  就寝前に、適量の飲酒をすると寝付きがよくなり、睡眠の前半部で非常に深い眠りを増加させます。 しかし、度が過ぎると眠りにつくまでの時間は短くなるものの、睡眠全体のリズムが崩れ、目覚めも悪くなる場合があります。また、中途覚醒(夜中目が覚める)や早朝覚醒(朝早くに起きてしまう)を起こすこともしばしばです。しかも、寝るために毎晩飲酒すると、初めの頃より多く飲まないと睡眠が得られなくなり(耐性)、飲酒量が増えアルコール依存症に陥ってしまう可能性があります。1日1〜2合の飲酒にとどめ、週に2度の休肝日を作りましょう。

 

Q3、どれだけ飲むとアルコール依存症になりますか?
  清酒5合、またはビール大ビン5本を毎日飲むとやがてアルコール依存症になるといわれています。 体重60kgの健康男子の1日のアルコール処理能力は、純アルコールで144ml、すなわち、清酒5合、ビール大ビンで5本とされています。ですから、これ以上をほぼ毎日飲酒していると、常に体の中にアルコールが残っている状態になり、アルコール依存症になる危険性が大というわけです。高齢者や肝機能の落ちている人はもっと少ない量でも危険です。また、女性は男性にくらべ短い期間(約半分)で依存症になりやすいので注意が必要です。更に、個人的な精神問題も、アルコール依存症への道を加速します。

Q4、どのくらい飲むと肝硬変になりますか?
  1日7合の清酒を毎日飲むといずれ肝硬変になります。 お酒をたくさん飲み続けると、肝臓は脂肪肝となり更に肝線維症という過程を経て、肝硬変になっていきます。肝硬変になることと積算飲酒量は密接に関連します。男性では、1日7合の清酒を15〜20年継続して飲むと肝硬変になるといわれています。ただし、もっと少ない量でなる人もたくさんいます。女性では、より少ない飲酒量で肝硬変になると言われています。また、1日3合の飲酒を5年以上続けていると、ほとんどの人は脂肪肝の状態になります。

Q5、たまご酒はほんとに風邪に効きますか?
  ノーですが、ある意味ではイエスです。風邪の原因は大部分がウィルスによる感染で、特効薬はありません。ですから、卵にも風邪を治す作用はありません。 しかし、風邪をひくと食欲がなくなり、栄養状態が悪くなります。たまご酒は口当たりが良く、卵は良質のタンパク質です。ですから、食欲のない時の栄養補給には適切な飲み物といえます。また、適量のお酒を飲むことにより熟睡ができ、その安静効果が風邪の回復に役に立ちます。ただし飲みすぎは禁物です!

Q6、痛風にはお酒はよくないでしょうか?
  適量ではノーで過ぎるとイエス。 血液中の尿酸が高くなると(血清尿酸値が7.0mg/dl以上)結晶となって関節などに5年から10年かかって沈着します。痛風は、この沢山沈着した結晶が、関節の中で剥がれて関節に傷をつけることによって起きます。尿酸は、プリン体と呼ばれる物質から作られます。アルコールの中ではビールが最もいけません。ビール100mlの中にプリン体が5mg含まれ、ビール1リットルを飲むと、血清尿酸値1mg上げるといわれています。清酒100mlには1〜2mg含まれ、ウィスキーや焼酎の蒸留酒には含まれていません。アルコールの分解過程でも、尿酸は作られます。 したがって清酒1合程度の飲酒では、尿酸の値には全く影響しませんが、飲みすぎによって尿酸の排泄が低下します。従って、過ぎた飲酒、特にビールは禁物です。

Q7、お酒が心臓病の予防によいというのは本当ですか?
  イエスとノーです。アルコールの消費量と冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)発生には逆の関係が認められ、適度の飲酒は冠動脈疾患の発生を低くするという統計があります。この理由は、お酒を飲むことにより善玉コレステロール(HDLコレステロール)が増え、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が減るために、動脈硬化が予防されると考えられています。 一方、過度の飲酒は、中性脂肪を増やし動脈硬化を促進させ、虚血性心疾患による死亡率を増加させ、不整脈や心筋症の原因となります。また、高血圧・糖尿病・痛風などの成人病の原因ともなります。まさに「過ぎたるは及ばざるがごとし」です。

Q8、赤ワインが動脈硬化を予防するというのは本当ですか?
  イエスです。赤ワインの心臓病に対する効用は古くから知られています。フランス人は、血液の総コレステロールの値でみると他の欧米諸国と同一水準なのに、心臓病死亡率が際立って低いのです。赤ワインは、ブドウ糖の種子・果皮・果汁を一緒に発行させて作ります。この種子と果皮に天然の抗酸化物質(ポリフェノール類など)が豊富に含まれていて、動脈硬化の進展因子である酸化変成された悪玉コレステロール(LDLコレステロール)ができるのを防ぐからだと推定されています。また最近では、赤ワインは認知症の予防にも効果があるとの統計もあります。

Q9、お酒を飲む人は長寿ですか?短命ですか?
  難しい質問です。Q7の心臓病の話でも出てきたように、ほどほどに(清酒でいうと1日1.2合程度)たしなむ人は、大量にお酒を飲む人や全く飲まない人に比べて長生きできるという統計があります。しかし、個人差が大きいとされ、適度の飲酒で長生きできるという説が正しいと一般的に認められているわけではありません。Q2でも出てきたように、お酒をほどほどに飲むと血圧が下がりぐっすりと眠れるという有用性もあります。 しかし、皆さんも経験があると思いますが、「ほどほどに飲む」ことが最も難しく、飲酒量が増えてアルコール依存症や肝硬変に陥ってしまう可能性が常にありますので、飲酒をお勧めするわけではありません。

Q10、お酒の適量は、どのくらいですか?
  1日に、ビールでいうと大ビン1本と少し、日本酒では1合と少し、ウィスキー(シングル)では2杯、焼酎のお湯割り1杯半程度が目安かと思います。もちろん、これを全部飲んでいいというわけではなく、このうちのどれかですよ! お酒に強い人でも、日本酒1合あるいはビール大ビン1本のお酒を分解するのには、約3時間必要とされています。3合飲めば9時間ぐらいかかり、朝方まで肝臓は働きどおしです。従って、これ以上飲んでいれば翌朝酔っていないようでも呼気中のアルコール濃度はある程度認められ、酒気帯び運転で警察のお世話になる場合もあります。


〜みんなで覚えよう家庭介護 第2集〜  関節の拘縮予防について       理学療法士 仁木一雅

 「拘縮」という言葉はあまり聞きなれない言葉かもしれませんね。私達人間は常に体を動かして生きていますが、体を動かさないでいると、関節の周りについている皮膚・筋肉・腱・靭帯・滑膜(関節包)・軟骨などの軟部組織(図参照)が固くなったり短縮することにより本来の軟らかくなめらかな動きが出来にくくなります。拘縮とはこの様な状態におちいり,正常な運動が出来なくなった事を言います。

 原因は一定期間に関節を動かさないことが全てです。たとえば骨折などでギブス(医学的にはギプス)に入った経験をされたことがある方はお分かりと思いますが、本当に関節が固まって動かなくなり、これをリハビリで動くようにするのは大変なことです。他に、脳梗塞や脳出血による半身麻痺が原因になることがしばしばあります。この場合には麻痺だけでなく、筋肉の緊張が高まり,関節が動かなくなります。特別な病気がなくても、コタツからあまり動かなくなったり、寝たきりになるだけでも関節の拘縮がおきることがあります。

  拘縮予防はからだや関節をとにかく動かすことです。動かしてさえいれば拘縮はおこりません。自分で動かせる方は関節の動かせる範囲(角度)を3〜4回ゆっくりと動かし、これを1日に2セット(たとえが朝1回、夕1回)動かしてください。ラジオ体操なども有効です。自分で動かせない方は介護者が、痛みが出ないように注意しながら動かしてあげましょう。一つの関節1回に30秒程かけゆっくり行って下さい。痛みなど言葉で言えない方については、苦痛表情がないか確認しながら行ってください。お年寄りでは骨粗鬆症(骨がもろくなる病気)の方が多く、あまり無理をすると骨折を起こしてしまう場合がありますから、特に注意が必要です。 拘縮が生じてしまうとなかなか治療は難しくなりますので、普段あまり身体を動かさない方は拘縮がおこらないように十分に注意してください。なんでもそうですが、怠けものはいけません。

 なお、すでに拘縮がある方はあまり無理をせず医師または理学療法士・作業療法士にご相談ください。

平成22年3月号

〜知って得する健康講座  第21集〜 鼻からの内視鏡について      医師 末綱 靖

  胃や食道の病気は、早期に発見できればほとんど完治させることができますが、そのためには定期的な受診が欠かせません。鼻から入れる胃の内視鏡検査は「つらくない」と多くの方々から喜ばれており、当院でも経験された方のうち8割以上が「次回も鼻から」の検査を希望されています。胃カメラが苦手な方、胃の調子が気になる方にはぜひお勧めだと思います。

 経鼻内視鏡(けいびないしきょう)は、平成15年に開発されて以来、苦痛が少ないことから広く普及している検査で、当院でも平成17年に導入しました。最近の技術開発によって、検査の質も着々と進歩しつつあり、さらには今までの内視鏡検査では発見しづらかった病変が、経鼻内視鏡の強みを生かして容易に発見されるようになってきました。 経鼻内視鏡は従来の内視鏡より格段に細く作られており、口からだけでなく鼻からも挿入することができます。そのため、内視鏡検査を苦しくする原因の一つの嘔吐感が発生しません。また、医師と会話しながら検査を受けることができるため、苦痛が少なく安心して受けられる検査として絶大な支持を受けています。 最近は観察性能の向上にもめざましいものがあり、技術開発によって画質が格段に改善され、明るく見やすくなってきています。

 さらに、コントラスト(明るい部分と暗い部分
との明暗の差)を高める分光画像処理技術も経鼻内視鏡に応用され、これまで見分けることが難しかった胃癌などの病変を容易に発見できるようになりました。 また、ここまで進化した経鼻内視鏡だからこそできることもあります。経口の内視鏡が直径約10mmなのに対して、経鼻はなんと5.9mm。細くてしなやかなスコープなので小回りが利いて狭い空間でもスムーズに反転して観察することができるので、従来の太い内視鏡では見づらかった場所の病変を見つけやすくなりました。 苦痛が少ないだけではなく、技術の進歩により観察精度が高くなった経鼻内視鏡は、これまでの内視鏡とは違う、新しいタイプの内視鏡といえます。

●経鼻内視鏡の特長

@
吐き気が少ない検査です。 風邪をひいたときの診察で、舌の奥をヘラみたいなもので押されて「オエッ」となりそうな経験をしたことがあると思います。 これを咽頭反射(いんとうはんしゃ)といいますが、口から内視鏡を入れる場合は、多少なりともこうした咽頭反射が起こります。 ところが、鼻から入れる場合は内視鏡が舌の根元に触れないので、ほとんど吐き気をもよおすことなく検査を受けることができます。
A
検査中に話ができます。 口から内視鏡を入れると、口がふさがってしまうために検査中は話ができません。しかし、鼻から入れる場合は口を自由に動かせますので、検査をしている医師と「痛くありませんか?」「はい、大丈夫です」「これが患者さんの胃袋ですよ」というような会話ができます。気になったことをその場で確認できるので、安心して検査を受けられます。
B
体にやさしい検査です。 鼻からの内視鏡は鼻腔(びくう)へスプレーをして出血を予防し、ゼリー状の液体を流し込んで局部麻酔を行いますが、鼻の中に注射するようなことはありません。 麻酔に用いる薬が少量であるため、体への負担も少なく、検査終了後30〜60分で水を飲んだり食事をしたり、車を運転することもできます。

  

●検査の進め方

@問診
:危険を避けるための事前チェックです 検査の前にこんなことを聞かれます。  
・薬のアレルギーはありますか?
・耳鼻咽喉科の先生から、鼻が悪いと言われたことがありますか?
・鼻血がよくでますか?
・血が止まりにくいことはありますか?
・肝臓が悪いと言われたことはあますか?
・血液をサラサラにする薬を飲んでいますか?
A前処置
:消泡剤を飲みます 胃の中の泡を取りのぞき、胃の壁をきれいにするために、消泡剤 (やや苦い味の白い液体)を飲みます。 これは口からの胃内視鏡検査の場合も同じです。
B前処置
:鼻腔に局所血管収縮剤をスプレーします 鼻腔粘膜の血管を収縮させます。出血しにくくするだけでなく、鼻のとおりも良くするために行います。スプレーは風がシュッと入るような感じで、ほとんど痛みはありません。
C前処置
:鼻腔に麻酔薬を注入し、局所麻酔を行います 麻酔法は、小さな注射器型の注入器で流し込むタイプとスプレー式のタイプがあり、 病院によって異なります。局所麻酔ですから眠くなりません。当院では注射器で鼻に注入しています。
D前処置
:麻酔薬を塗ったチューブを挿入します 細くて柔らかいチューブにゼリー状の麻酔薬を塗り、鼻腔に挿入します。鼻腔の痛みが抑えられ、内視鏡の通過がスムーズになります。 内視鏡と同じ太さのチューブを使うことが多く、この段階で、実際の内視鏡の挿入感をイメージして頂けます。
E挿入
:鼻からゆっくり内視鏡を挿入します 前処置を行った側の鼻へ内視鏡を挿入します。この時、違和感はあるものの、ほとんど痛みを感じることはありません。
F観察
:胃の中を観察します 食道、胃、十二指腸の順に観察していきます。モニターを見て、自分の目でもその様子を確かめることができます。検査中でも口は自由になっていますから、医師に質問もできます。
G終了
検査が終わったら 約30分〜60分で水も飲めますし、食事もできます。原則として眠くなる麻酔を注射しないので、すぐに帰宅できます。車の運転もできます。

 胃癌だけではなく、ご自分の胃がどうなっているのかを確かめておくためにも、ぜひ一度お試しになり、何かが見つかっても早期に対応できるよう、定期的に受診することをお勧めします。

『くちなしや 鼻から下は すぐにのど』   〜江戸雑俳〜


 “介護が必要になっても、御家庭で明るく活力ある生活を送ること”をテーマに、特集第2弾として「みんなで覚えよう家庭介護」のコーナーをもうけました。床ずれ防止のための体位変換をはじめ、今後、「拘縮予防」、「歩行介助」、「寝返り」などについて、ひとつずつ詳しくお話してまいりますのでどうぞお楽しみに。

〜みんなで覚えよう家庭介護 第1集〜  体位変換について          看護師 穴見 貴代

 健康な人は眠っていても知らず知らずのうちに身体の向きを変えて寝返りを何回も行っています。しかし、障害をもち高齢になって身体を自由に動かせなくなると、寝返りがうまくできなくなります。

 寝返りができない状態が続いてしまうと、身体の同じ部分に圧迫が集中し血液の流れが悪くなり、床ずれ(褥瘡:じょくそう)ができます。特に、高齢者はやせてお尻の骨や背骨が突出しやすくなったり、皮膚が薄く弱くなったり、手足の関節が曲がって固まってしまう(拘縮:こうしゅく)ことがあるので床ずれは非常にできやすくなります。ですから、家族や周りの人が気を付けて身体の向きや位置を変えて、血液の流れを確保してあげることが大切です。

 2時間以上同じ姿勢のままでいることがないようにすることが基本的には大切であるといわれていますが、時間にこだわるだけでなく、特に骨が突出している肩や、腰、踵、頭にかかっている圧を除き、血流をよくすることが大切です。

 仰向け(仰臥位)から横向き(側臥位)への体位変換の方法について説明します。

●―方法(一人で行う場合)

1.
介護する人の身体を向けたい側の反対に立ちます。体位変換を受ける人は両手を胸に組んでいただき、身体をなるべく小さくまとめるようにしていただきます。可能ならば、膝を立てていただきます。
2.
身体を介護する人の方に引き寄せます。 頭の枕は介護する人の手前に引き寄せておきます。後頭部か肩にかけて介護する人の手をすっぽりと差し込みます。もう一方の手は腰の下に反対側の横腹を支える感じで身体を支え、まず上半身を手前に引き寄せます。その際、身体が敷布団でずれると、そのずれによって床ずれを発生させる原因にもなるので、なるべくずれないように移動させます。  続いて、腰の下と、膝の下にすっぽりと手を差し込んで下半身を引き寄せます。
3.
次に介護する人は、身体が向くほうに立ちます。
4.
向きを変える側に顔を向けます。
5.
肩と膝に手を添えて手前に倒します。
6.
背中に枕やクッションを入れます。
7.
下になった肩を少し引きます。肩が入りこんだり、肩の皮膚もよれている状態になっているので、一旦肩を浮かしておくことが大事です。肩も骨が突出している部分なので、側臥位になったときの床ずれ発生には注意が必要です。
8.
お尻を少し後ろに引き、横向きでかがむような体位とします。こうすることで安楽な姿勢が維持されます。 また腰の部分の皮膚のよれもとることができます。腰の骨も突出しているので側臥位のときに一番圧がかかりやすい部分になります。
9.
身体と身体が重なっている部分や、浮いた場所にクッション等を入れます。筋肉の緊張が和らぎます。

『引用 財)団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット』

 

平成22年2月号

〜新年の御挨拶〜                           院長 水本 誠一

 山都町住民の皆様、明けましておめでとうございます。昨年は世界的な経済危機の中で政権交代が実現したものの、今年もなお先の見えない不景気の中で迎えた二回目の新年となりました。そんななかでも久しぶりに都会から帰郷されたご家族と貴重な時間を過ごされた方々も多かったのではと推察いたします。山都町立蘇陽病院の院長を仰せつかっております、水本誠一でございます。

 さて、私が山都町に居を移し院長として赴任しましてから2回目の冬になります。この間、皆様のご期待に添える病院となるようにさまざまな取り組みを行なってまいりました。昨年を少しばかり振り返り、さらに今年の抱負について申し上げたいと思います。

 まず、昨年は様々なシステムの改革を行いました。レントゲンをパソコン上でみることができるようにPACSというシステムを導入しました。以前に撮ったレントゲンや内視鏡・超音波検査画像をも各診察室で瞬時に検索・閲覧できるようになりました。また“富山の入れ薬”のように、医療材料を使用した分だけ自動的に業者が納品してくれるシステム(SPD)も導入し、看護師や事務職の業務がかなり合理化されました。これらは診療報酬(病院の収入)の面でも経営面でのメリットもありました。また院内に簡易型携帯電話も導入し、スタッフ間の連絡がスムーズになりました。

 山都町唯一の救急病院としての長年の活動が認められ、昨年9月9日(救急の日)に救急医療功労者厚生労働大臣表彰を受けることができました。昨年は新型インフルエンザの影響もあり矢部地区からの夜間救急受診が増加し、また救急車も年に約250台以上と一昨年を上回るペースで受け入れております。医師・看護師はもとより放射線・臨床検査などのスタッフにも大きな負担をかけていますが、表彰に恥じないように職員一同今年も使命感を持ってがんばってまいる所存です。

 昨年の「ごあいさつ」でも書きましたが、老老介護をされている家庭、一人暮らしの世帯がたくさんあります。当院は訪問看護ステーションと3ヶ所の へき地診療所を運営しており、この方々の保健・医療・介護を積極的に担うことも目標にしています。慣れ親しんでこられた自宅で臨終を迎えたいと希望される患者さんの看取りも積極的に支援します。医療の原点とも言うべき「病院だけに閉じこもらない医療」を今年も目指して行きたいと思います。

 これらのように昨年は様々な業務改革や努力をしてまいりましたし、住民の皆さんのご理解をいただき、昨年度上半期で、わずかながら経常黒字を得ることができましたことは特筆すべきことでした。一年の最終決算が出るのは本年の6月ころになることかと思いますが、年間を通じて好成績が得られるように頑張ります。

 蘇陽病院のリニューアルにつきましては、いよいよ来年度予算で設計費用を計上させていただき、本格的に動き出します。補助金の関係もあって、平成23年の春には着工という計画で進めてまいります。今の蘇陽病院は日本全体でもおそらく最も老朽化した自治体病院ではないかと思います。全国的な医師不足の中、現在当院に5人の常勤医が勤務していることはまったく“奇跡的”なことであり、山都町の皆さんにとっては“宝もの”といっても過言ではありません。この宝ものを維持するには現在の施設ではもう限界です。これから事業がスムーズに進むかどうかは住民の皆様のご支援にかかっています。どうぞよろしくおねがい申し上げます。

 新しい政権による国の新予算がどうやら出来上がり、診療報酬も本体部分で1.4%の上昇と報道されていますが、地方の小病院にとってどれだけの恩恵がもたらされるかふたを開けてみないことにはまだわかりません。 そもそも、10年ほど前までは全国の「いなか」はそれなりに住みやすいところでしたし、都会に出て行った人々も田舎を歴史と伝統に基づいた文化財産、食糧基地と捉え地方交付税などで支援してきました。ところが近年では、農業も林業も建設業も採算が合わなくなり、そして教育や医療も同じような経済至上主義の思想の元、採算が合わないと切り捨てられるようになってきたのは、いったいなぜなのでしょうか。このままの社会の流れでは日本人全体、いや世界人類が生きてゆけない時が来るでしょう。農林業者、医療者、行政、その他住民全体が一体となって、社会の潮目をかえて行くべき時と思います。

 私は今年も、「病院づくりは地域づくり」の理念を持って頑張ってゆきます。あらゆる機会を捉えて、皆様のお気持ちやご意向を病院運営に活かせるよう努力する所存でございますのでご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い申しあげます。


〜知って得する健康講座  第20集〜  鼠径(ソケイ)ヘルニア      医局長 米山 哲司

 鼠径ヘルニアといっても、何それ?と思う方が多いと思いますが、“脱腸(だっちょう)”なら皆さんご存知ではないでしょうか?今回はその“脱腸”のお話です。

●“脱腸”ってなに?
  お腹の中にある臓器(小腸,大腸,女児であれば卵巣,卵管)が飛び出してきて,鼠径部(股の付け根)が膨らんでくる病気を鼠径ヘルニア(脱腸)といいます。こどもに多く見られる病気ですが、以外にもおとなにも多く認められる病気でもあります。

●ソケイ部(股の付け根)の解剖は?
  外科研修医時代にこの解剖を理解するのに苦労したものです。まるでブラックボックスのようでした。詳しくは解剖書に譲りますが、ここでは簡単に。 ソケイ部にはソケイ管と呼ばれる筋肉と腱膜(スジ)からなる管があり、その中に男性では睾丸に行く血管や精子を運ぶ管が、女性では子宮を支える靱帯が通っています。実は生まれる前にはこの管の中に腹膜の一部が引き込まれ、お腹との交通があるのですが、生まれた後にこの腹膜が閉じてしまいます。

●原因は? どんなタイプがあるの?
  しかし、その腹膜が閉じずに、そのまま残る場合があります。これをヘルニア嚢(のう)といい、この部位に腸などが入り込むようになると、ソケイ部が膨隆し“だっちょう“となるのです。そのほかに、別にお腹との交通がなくなっている場合でも、ソケイ管を作る筋肉が年齢とともに弱くなり、ここからお腹の腹膜が伸びてきて膨隆をきたし”だっちょう“ともなることもあるのです。つまり、生まれつきお腹と交通しているか、それとも筋肉が弱くなっているかで”だっちょう“が起きるのです。このような原因によってソケイヘルニアは一般的に二種類に分けられています。前者を外ソケイヘルニアといい、主にこどもに、後者を内ソケイヘルニアといい、主におとなに多くみられます。

●症状は?馬鹿にできない脱腸とは?
  最初はお腹に力を入れたとき小さな柔らかい膨らみがみられ、何か出てくる感じがあります。次第に膨らみが大きくなっていくと不快感や痛みを伴う様になってきます。通常は指で押さえると引っ込むことが多いのですが、膨らみが急に硬くなって押さえても引っ込まなくなることがあり、お腹が痛くなったり吐いたりすることが起こることがあります。これをヘルニアの嵌頓(カントン)といいます。急いで手術をしなくては命にかかわる状態で、これがあるから脱腸といえども侮れない病気なのです。

●治療
  ヘルニアは薬では治りません。原則的には手術が勧められます。手術方法はヘルニアの種類・病状や年齢によって決定されます。 一般的には、ヘルニアの嵌頓(カントン)は緊急手術になることが多いです。また、小児では、お腹と交通が残る場合が多いため、交通している部分を閉鎖するのみの手術となりますが、成人では、筋肉が弱くなっていることが多いことから、交通している部分を閉鎖することにだけではなく、筋肉の弱い部分を補強してやる必要があります。以下に代表的な手術法を示します。

(1) 従来法
:ソケイ管の口を縫い縮め、腹部の筋肉や筋膜を糸で縫い合わせることで補強する手術です。術後の痛みが強く現在ではあまり行われていません。
(2) メッシュ・プラグ法
:人工補強材(ポリプロピレン製メッシュ)をソケイ管の口や筋肉の弱い部分に入れて補強する方法です。術後の痛みが少なく、再発率も低く、現在多く行われている術式です。蘇陽病院もこの方法で手術をしています。
(3) クーゲル法
:形状記憶リングが装着された二重のポリプロピレンメッシュを用いて腹膜を覆うように挿入し補強する方法です。最近はこの方法を行う施設が増えており、将来は標準術式のなるのではないかと思われます。

●最後に
  “だっちょう“は決して馬鹿にできない病気です。もし“だっちょう”に関してご心配があるようでしたら、蘇陽病院をはじめ最寄りの医療機関を受診していただけたらと思います。

 

平成22年1月号

〜知って得する健康講座 第19集〜  お口のできもの      柏歯科診療所 甲斐 義久

 お口の中の病気は、むし歯と歯周病だけと思われがちですが、他にもさまざまな病気があります。その中の病気の一つとして口腔悪性腫瘍があります。私がこちらに勤務して14年ちょっとの間に8例の口腔ガンと遭遇し、4例の術後症例に出会いました。14年で合計12例、この数字が大きいのか少ないのかわかりませんが、一般的にお口の中にできるガンは、体にできる全てのガンの2〜3%と言われています。学生のころの講義では、一生歯科医を続けていくうちに1例と出会うかどうかの確率だろう、と習いましたが、それからするとかなりの発生確率となります。

 口腔ガンといっても多種多様でいろいろな病態を示します。ここでは詳細は割愛しますが、どのガンでも共通して言えることに、肉眼で確認できると言うことがあります。つまり、おなかの中のように内視鏡で検査しなくてもお口の癌検診は肉眼で可能なのです。癌年齢の方は何も異常を感じなくても、1年に1回はお口の中を見てもらった方が良いでしょう。特に、お口の中にできた「できもの」や「傷」が1週間以上経ってもよくならない場合は早急な受診をお進め致します。口腔ガンも早期発見が一番大切です。


〜蘇陽病院内見て歩き〜  北部へき地診療所の紹介              医師 井野 裕治

 北部診療所は東竹原にある小さな診療所で昭和33年4月に開設されました。以前使われていたレントゲン装置や超音波装置などが残っていたり、20年前のカルテなどが残っており歴史を感じさせてくれます。
  現在、診療時間は毎週金曜日の14時〜16時半頃まで診療しています。一般的な内科診察から関節注射などの外科的な処置まで幅広く診療を行っています。
  診療所に来られる方は、半日の間で10数名なので病院に比べると比較的ゆっくり診察できます。しかし先日はインフルエンザの予防接種があったため、30名近くの方に来院して頂きました。医師1人、看護師1人、受付事務1人の3人での対応はなかなか大変で、時間をオーバーしてしまいましたが、何とか無事に診療を終えることができました。
  施設自体は老朽化しつつありますが、古くなった薬剤は変更し、また新しい知識の習得に励み、新しい医療ができるように頑張りたいと思っております。これから寒くなり道路に積雪することがあるかもしれませんが、四駆のスタッドレス車に乗って診療に向かいますので今後もよろしくお願いします。